家や学校、会社や公園にまである水道水。
蛇口をひねれば、手を洗ったり、水を飲んだり、きれいな水で料理も作れたりします。
今では、当たり前のように水を使っているから忘れてしまいがちですが、
『いつでも水を使える』って、スゴいことじゃないでしょうか?
もしも水道が無かったら、川の水をバケツで汲んでくることぐらいしかできないなぁ
水道は、なんで蛇口をひねるだけで水が出るんだブゥ?
今回は、そんな便利な水道の『蛇口』の仕組みについて説明していきます。
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蛇口の仕組み
水道の水は、『蛇口』と呼ばれる器具を通って出てきます。
ハンドルをひねると水が出てきますよね。
どうして水が下から上に上がってこれるの?
モノを落としたら下に落ちるのと同じで、
水も上から下へ落ちます。
なのにどうして、水道水は下からあがってくることができるのでしょうか?
水道の水は、巨大なポンプによって圧力をかけられて、
押し出されるように配水管の中で運ばれています。
なので、ハンドルをひねって閉じていた出口をあけてあげると、
圧力に押し出された水が出てくるのです。
ストローで飲み物を吸うと、最初は空気を吸っているだけなのに、水も一緒に上がってくるよね。
ここでひとつギモンですが、
『出口を開けてあげると水が出る』という仕組みなら、
どうしてドアのようにパカッと開け閉めするのではなく、わざわざ『ハンドルを回して』水を出すのでしょうか。
蛇口の中身がどうなっているのか見てみる前に、まずは蛇口に使われているパーツを紹介しますね。
蛇口に使われているパーツ
どういうパーツが組み合わさって蛇口が出来ているのか、早速見ていってみましょう。
蛇口はわかりやすく分けると、3つの部位に分かれていますよね。
- ハンドル
- 吐水口
- 給水管接続部
そしてそれぞれの部位は、さらに細かいパーツに分かれています。
ハンドル
まずは『ハンドル』の部分からのぞいてみましょう。
ハンドルだけで、なんと10個近くのパーツがくっついています。
上から1つずつ、説明していきますね。
① ビス
ハンドルをくっ付けるための小さなネジ。
② ハンドル
手で掴みやすい形をしている取っ手。
③ カバーナット
物を締め付けるためのパーツ。
内部にぐるぐるのミゾが入っていて、六角形のかたちをしている。
ハンドルと給水管を繋いでいます。
④ 三角パッキン
水が漏れないように、スキマをうめるためのゴム製などのパーツ。
真上から見ると輪っかの形をしているけど、
横から見ると『台形』の形をしているから三角パッキン。
パッキンとは?
水などの液体が漏れるのをふせいだり、
逆に外から中に異物が入ってしまうのを防ぐために付けるパーツ。
⑤ 座金
パーツとパーツの間に挟んで緩み止めになったり、
パーツを壊れにくくするための、輪っか状で平たい金属の板。
「ワッシャー」と呼ばれていることもある。
⑥ スピンドル
部品を回転させるための軸。
①のビスとつながって、ハンドルの全てのパーツをまとめている。
⑦ ケレップ(コマ)
⑥のスピンドルの下にスポッと挿さる。
「コマ」と呼ばれていることもあって、おもちゃのコマのような形をしています。
⑧ パッキン
ケレップの下にもパッキンをくっ付けます。
(こんどは三角パッキンはなくて、普通の丸くて平たいパッキン。)
蛇口の中で水をせきとめる役割をしているようです。
ナット
⑦ケレップと⑧パッキンをくっ付けるためのパーツ。
スピンドルから下のパーツは、内部にかくれていて見えないので、
なんのためにこんなに部品がくっついているのか、このままではわかりませんね。
けれどこの後の説明で、どうしてこんなパーツがくっついていたのか、わかるようになりますよ。
吐水パイプ
2つめの部位は『吐水パイプ』。
このパーツも、ただパイプだけがくっついているんじゃなくて、
繋がる部分に細かいパーツが使われています。
① Uパッキン
『三角パッキン』でも『普通のパッキン』でもなくて、
こんどはUの形をしたパッキン。
ゴムの内側にミゾが掘られていて、断面を見ると『U』の形になっています。
パッキンはなんで形が違うのを使うの?
それぞれのパッキンの特徴を見てみましょう。
①普通のパッキン(平パッキン)
すべり止めや密閉のために使われる、万能なパッキン。
②三角パッキン
部品を繋げるパーツ『カバーナット』に、ぴったりはまるように作られているパッキン。
カバーナットと同じような形をしているので、
平パッキンよりも水漏れや汚れ侵入をふせぐのに適しています。
Uパッキン
(この図は断面図を見せているだけで、ほんとうは輪っかの形をしています。)
おさえているカベとカベがずれた時に、Uの形のゴムならカベに沿って動くので、
水漏れ防止や密閉により適しています。
加えて、くっつけているパーツが『(他のパッキンに比べて)回転しやすい』などの性質もあるようです。
蛇口のパイプを回す部分に最適のパッキンということですね。
② リング
パイプが抜けないよう固定する、プラスチック製のリング。
輪っかの一部が途切れていて、輪がCの形になっている。
パイプに少しだけミゾがあるので、そこにはまっています。
③ パイプ
水を使いやすい位置に運ぶためのパイプ。
短いパイプや長いパイプなど、色々なパイプがあります。
①Uパッキンと②リングをパイプに先にはめます。
④ パイプナット
パイプと給水管を繋いでいるパーツ。
この4つのパーツで、蛇口に吐水パイプを繋いでいます。
給水管接続部
『パーツが繋がる部分』ということで『接続部』と書いておきます。
最後は蛇口のいちばん気になる部分、中央にある接続部を見ていきましょう。
給水管と、ハンドルと、吐水パイプを繋いでいる部分です。
中は空洞?のように思えますが、ちょっと違います。
ここまでに説明したハンドルからスピンドル、ケレップたちが合体して、ここにガッチリと装着されているのです。
これで蛇口の全てのパーツと部位を見終わったので、
いよいよ蛇口の内側を覗いていってみましょう。
中身を見たら、どうやって水が出ているのかがやっとわかるよ!
蛇口の中身
ハンドルをひねった時、蛇口の中では何が起こっているのでしょうか。
実は、給水管接続部の中は、こんなつくりになっています。
中央に謎のカベがありますね。
ハンドルの根っこにくっ付いていた、
『スピンドル』や『ケレップ』たちがここで活躍しています。
ハンドルを回すと、ハンドルにくっ付いている『ケレップ(コマパッキン)』が下にさがり、
内部のカベにあたって、すきまにフタをします。
給水管からやってきた水が、この部分でせき止められるのです。
栓をして水を溜められるのと同じように、パッキン(ゴム)が隙間をふさぎ、水を制御しています。
水は圧力でぎゅうぎゅうに押されて蛇口まで運ばれているので、
ハンドルを少しだけ回すと少量の水が出て、
ハンドルをたくさん回すと大量の水が出る仕組みになっています。
あの謎のカベは『弁座』というそうです。
ハンドルの説明で出てきた、いちばん下にくっついている『ケレップ』の役割は、言いかえると『弁体』とも呼びます。
水を制御するケレップ=弁体
水の量を調整する『ケレップ(弁体)』に対して、弁を受ける側の部分なので、
内側にある謎のカベの名前は、弁座と呼ばれているようです。
『弁』という漢字にはいろいろな意味があって、
『かんむり』『はなびら』『わきまえる』『分ける』『処理する』『話し方』
などなど、たくさんの意味が込められています。
その中でも、『分ける』『処理する』という意味が蛇口には近く、
『水の量を調整する』という役割に当てはめられて『水を処理している部分=弁体・弁座』と呼ばれているとイメージすれば良いと思います。
ドアのように開け閉めしかできない出口では、水の量が調節しづらいですよね。
なのでこのように、水の強さを調節できるよう、
内側に弁座というカベをつくり、ハンドルで調整できるようにつくられているのです。
蛇口の材質
ここまで蛇口の仕組みを解説してきましたが、
そもそも蛇口は、どんな材料でつくられているのでしょうか。
蛇口の材質は、『青銅』や『黄銅』などの『銅』が多く使われています。
5円玉も黄銅でつくられているよ。
銅は加工がしやすかったり、抗菌性に優れているので
蛇口の素材に適しているようです。
銅のままでは見た目が悪かったり、サビなどができてしまうので
銅の上から『クロムメッキ』など別の材質でピカピカに仕上げられています。
(黄銅は『真鍮』とも呼ばれています)
黄銅と青銅の違いは、
◆黄銅の成分 … 銅 + 亜鉛
◆青銅の成分 … 銅 + スズ、リン
このように成分が違うことで、銅の強さや柔軟性、耐久性に違いが出てくるのです。
鋼はどこで手に入れられるの?
山に黄銅の石みたいなのがあって、それを削ってとってくるとか?
黄銅は『合金』といって、2種類の金属(銅と亜鉛)から作り出したものです。
なので山に自然にある鉱石とはちょっと違います。
銅は『銅鉱石』として鉱山などに存在します。
亜鉛も鉱石に含まれている材質で、色々な方法を重ねて抽出するようです。
様々な方法を使って、特定の物質を抜き出すこと。
イメージしやすくたとえると、『塩』は海の水を煮詰めると取り出すことができます。
それと似たようなイメージですが、亜鉛を抽出するには、煮詰めるよりもっと難しいたくさんの方法が必要なようです。
蛇口の作り方
ここまでで、『蛇口の仕組み』『蛇口の材質』までわかりました。
では、目の前に『銅の塊』と『蛇口の設計図』が用意できたとしたら、
あとはどうやって蛇口を作ればいいのでしょうか?
材質を加工する
銅や鉄など、ほとんどの金属は熱で溶かして形を変えてつくります。
沸騰したお湯は100度もあって、手でさわるとヤケドをしてしまいますが、
そんなあっつい温度をはるかに越えた、数百度~数千度の温度で、材料を溶かして、
型に流し込んで、蛇口の形をつくるのです。
このように、金属を溶かして型に流し込んで物を作ることを「鋳造」といいます。
素材ごとに、溶ける温度は決まっています。
銅は1085度まで加熱すると溶けるようなので、
その温度では溶けない材質で、まずは型を作り
どろどろに解けてマグマのような液体になった銅を流し込んで、冷やして固めて、つくりたい形にします。
型で作るのが難しい部分は、切断したり、
パーツのつなぎ目を溶かしてくっつけたりして加工するのです。
実は鋳型は、金属のような固いものだけじゃなく、
なんと『砂』でもできてしまいます。
この鋳造の型にできる砂のことを『鋳物砂』と呼びます。
砂なら海の砂でもなんでも使えるというわけではなく、
・耐熱性がある
・強度がある
・ガスが抜けやすい
などの様々な条件をクリアできる、鋳造専用の砂なのです。
考えてみよう
ここまで読んだあなたは、もう水が出る仕組みも、蛇口の作り方も知ってしまいました。
蛇口を作るために必要なものが全てわかったところで、
『自分はどんな蛇口を作りたいか』と考えてみましょう。
- お花の形のハンドル
- ぞうさんのハナから水が出るおもしろい蛇口
- 好きなところに水を送れる便利なパイプ
どんな蛇口でも、あなたの好きなものが作れますよ。
たとえば、桶や柄杓は『木』で出来ていているのに水をすくえるように、
木材で蛇口を作ることだって、もちろんできます。
けれど木と水は相性が悪いので、水漏れしてしまったり、
すぐ壊れてしまったりするかもしれません。
たとえば『クギ』がもし木材でつくられていたら、
ハンマーで叩いたとたんに折れてしまいそうだと思いませんか?
ものづくりにはそれぞれ、適した材質があります。
さまざまな材質からもっとも適した素材を選び、より良いものをつくることができるのです。
あなたはどんなものを作ってみたいですか?
ものの仕組みや材質の性質を知れば知るほど、たくさんのものが作れるようになりますよ。
蛇口の豆知識
もっと知りたい!と思っている人へ、おまけの豆知識です。
『蛇口』の由来
吐水パイプがヘビのように細長いから?
と思いそうですが、ちょっと違うようです。
昔、日本で水道が普及しはじめた頃は、水の守り神である『龍』のデザインの蛇口が採用されていました。
そして架空の生物である『龍』の元となった生き物が『蛇』であることから、
蛇口は昔、「蛇体鉄柱式教養栓」という長い名前で呼ばれていたそうです。
必殺技の名前みたいですね(笑
それがやがて転じて、「蛇口」と呼ばれるようになった、という説などがあるようです。
誰かが「今日から蛇口と呼びましょう」と決めたわけではないため、いくつか説があるようなので、そのうちの一つを紹介しました。
パッキンの由来
よく、食べ物を袋に入れて保存したりすることを『パックする』と言いませんか?
それと同じで、『フタをする』や『密閉する』ことを『パッキング』と言います。
そこから、密閉させるために挟むゴムなので、『パッキン』と呼ばれているようです。
ケレップの由来
オランダの『川の流れを制御する技術の名前』からからきていると言われています。
ネジとビスの違い
ネジとビスは同じものです。
日本では昔から、『捻る』などの言葉からそれを「ネジ」と呼んでいて、
外国では(フランス語からきた)『ビス』と呼ぶ、というような言い方の違いです。
ただし、全てのネジがビスと呼べるかと言われるとそうでもありません。
(他の例でたとえると、『バイト』と『パート』は、意味は同じことですが、
『男子高校生がパートする』とは言い表さない、というような…)
時と場合によって変化する、言い回しの違いとイメージしましょう。
ものの仕組みを知ることで、自分で作れるようになったり、修理できるようになったり、
新しいものを生み出せるようになったりもします。
身の回りに普通にあるものでも、中には驚くような知恵が詰まっていたりするので
色んなものの仕組みに目を向けてみてください。
たくさんの素晴らしい仕組みを知る、キッカケになれれば幸いです。
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